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アウディ、「TT」日本導入20周年を記念する「bauhaus 100 japan Talk Live」開催

「全世界のカーデザイナーはTTを見るべき」と和田智氏

2019年7月29日 発表

ゲストスピーカーとして招かれた柏木博氏(左)と和田智氏(中央)、アウディ ジャパンのフィリップ・ノアック社長(右)

 アウディ ジャパンは7月29日、コンパクトスポーツカー「TT」シリーズの日本導入20周年を記念するイベント「bauhaus 100 japan Talk Live」を東京都世田谷区の二子玉川ライズ iTSCOM STUDIO&HALLで開催した。

 当日はシルバーの初代TTが展示された会場に、アウディ ジャパンWebサイトなどからの応募で当選した20組40人のゲストが来場。冒頭でアウディ ジャパン 代表取締役社長のフィリップ・ノアック氏があいさつを行なったあと、ゲストスピーカーとして招かれたデザイン評論家で武蔵野美術大学 名誉教授の柏木博氏、SWdesign 代表で元Audi Design デザイナーの和田智氏がそれぞれプレゼンテーションを行なった。

 ノアック社長は「この2019年は、バウハウスの開校100周年と私どもアウディの初代TT日本導入から20周年という記念すべき年です。アウディはクルマのメーカーとしてデザインを非常に重視しておりますので、このたびバウハウスさんとコラボレーションして、デザインについて、またデザインが人にとってどんな意味を持つのかというトークショーを開催させていただくことになり、非常に意義深いと感じております」。

「私はデザインに関してのエキスパートではありませんので、このあとにご紹介するゲストスピーカーのお2人にデザインについてもっと詳しく語っていただこうと思いますが、
。その前に、ここに展示している『アウディ TT』というクルマは、私にとっても本当に特別な1台です。TTはアウディにとってのデザインアイコンであり、アウディという会社のイメージを大きく変えることになりました。今日のアウディのルーツであり、今のアウディを象徴するモデルとして存在しています」とコメントしている。

アウディ ジャパン株式会社 代表取締役社長のフィリップ・ノアック氏
イベントの司会を務めたアウディ ジャパン株式会社 広報部 マネージャーの小島誠氏は、このイベントが20組40人を募集したところ、300組を超える応募が寄せられたことを紹介。バウハウスとアウディのデザインに対する高い関心の表われだと語った
会場に展示された初代TT。アウディ ジャパンのサービスメカニックの手でレストアが施されたとのことで、20年前の新車当時を思わせるコンディションとなっている
武蔵野美術大学 名誉教授の柏木博氏

 先にプレゼンテーションを行なった柏木教授は、スクリーンでバウハウスで製作された作品などを紹介しながらバウハウスの歴史について解説。バウハウスという名称については、バウは「建築」を意味する言葉であり、ドイツでは大きな建築物を作る際、近くに建築小屋を先に立て、そこで設計図を見ながら職人たちや建築家が打ち合わせをしていた。この建築小屋がバウヒュッテと呼ばれており、これをもじってバウハウスという名前になったと紹介。みんなが集まり、協力して物を作り上げる思想がこの名前に込められていると考えていると語った。

ベルギーの建築家であるアンリ・ヴァン・デ・ヴェルデの作品。この人物が20世紀初頭のドイツに開校した工芸学校がバウハウスの前身になっている
アール・ヌーヴォー様式はスカンジナビアの食器やカトラリーなどにも影響を与えているという
建築模型と設計図。玄関から続く中央にリビングを置き、周囲にベッドルームなどを配置することで廊下を不要とした無駄のない空間構成になっている
人間が口にする言葉には大文字も小文字もないので、すべて小文字で統一しようという提案
SWdesign 代表の和田智氏

 続いてプレゼンテーションを行なった和田代表は、日産自動車でデザインを担当した初代「セフィーロ」が高く評価され、自身も望んだ社命留学でイギリスの「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート」に2年間在籍。そこでアウディから派遣されていたデザイナーと知り合いになり、1998年にAudi Designに移籍した経緯などを説明。ちょうどそのころに発売されたTTを指し示し、「この当時のAudi Designから強烈に感じるのはピュアであること。現在の自動車業界でこの言葉はどこに行ってしまったのか。全世界のカーデザイナーはこれ(TT)を見るべき。なぜならピュアであるからです」と語った。

 また、1900年代中盤から2000年初頭にかけ、Audi Designをピーター・シュライヤー氏が率いていた時期には「ポストバウハウスとしてのアウディ」と呼ばれ、それまでカーデザインの領域でバウバウスと呼ばれる感覚はそれまでになく、時代の流れの中でバウハウスの理念がカーデザインとしてとらえられたことは非常にいいことだったとふり返っている。

 和田代表は9年ほど前に自ら立ち上げたデザイン会社で活動しており、自身の関与を公にはしていないものの、これまでに5台ほどの市販車を手がけているという。そして現在はEV(電気自動車)のデザインにフル回転で取り組んでいるという。

 最後には柏木教授と和田代表の2人によるトークセッションが行なわれた。この中で柏木教授は自身が務める大学で学生からデザインしたものを見てほしいと頼まれ、そのデザインが既存のもので原形にあたるようなものがあると指摘すると、当人は「自分はそんなものは知らない。これは自分が考え出したものだ」と主張すると紹介。デザインとしての先行研究について理解されないことは問題で、音楽でも文章でもベースになるものが存在し、それはデザインでも絶対に同じだとコメント。

 これを受けて和田代表は、自身がAudi Designに移籍していた当時、「自分の父親のようなディレクターだった」とするデザイン責任者のワルター・デ・シルヴァ氏から、スタジオにはいなくていいから、近くにあるアウディのデザインミュージアムに行ってそこで絵を描けと言われ、そこで自分に一番響いてくるものを見つけて検証するよう命じられたと紹介。それ以前に務めていた日産では「新しい、他とは違ったものをデザインしろ」と言われており、それは日本の社会全般に通じるポイントだと説明。

 日産時代には疑問に思ったこともなく、デザイナーとしてそれ(新しい、他とは違ったデザイン)が当たり前だと思っていたが、アウディでは正反対のことを言われ、デザインの本質はそこにあると考えるようになったと説明。会場に置かれたTTにも同じ思想が息づいており、この車両を見て「古いクルマだね」と終わらせるのではなく、このクルマが何か語りかけてくるものがあるのではないかと感じ取ることが一番重要なことだと和田代表は語った。